ターミナル 40
4階の階段を上り屋上に着くと葛城香織が待っていた。
5月下旬の心地良い昼下がりだった。
直人はてっきり香織に告白されると思っていた。
腰辺りまである黒髪を伸ばした、笑顔の少ない女の子だ。
『実は村上にお願いがあるんだけど・・・』
おいおい来た来た。
『一緒にやってくれない?』
えっ!!昼間っからそんな事を言って…。
『ボーカルやってくれない?』
『はいっ~?!』
『ちょっと事情があって奈津子抜けちゃったんだ、お願い。
帰宅部なんだからいいじゃない』
あの歌い方も顔も可愛かった加藤奈津子が脱退したのか。
歴史が少しずつ変わってきているな。
直人の存在が周りの人間の環境を少しずつ変えているようだ。
香織の訴えかける乙女な視線に全く気づかずに少し考えてOKした。
『サンキュー!!じゃあ明日からヨロシクね』
そう言ってそそくさと階段を下りていってしまった。
その日の放課後、幸恵といつものように下校し、音楽を本格に
やりたくなって軽音楽部に入る事を告げた。
彼女の幸恵には香織に誘われたからとは言えなかった。
『そうなんだ…。でも、私もバイト始める事にしたからいいか。
毎日練習って訳じゃないでしょ』
素直に受け答えする幸恵に対して妙に罪悪感を感じた。
でも、やりたかったのにやらなかったバンドへの期待が少しずつ
直人の心を支配していった。
つづく









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